うちの幼馴染みは昔からとにかく寝相が悪い。
 朝起きると体が上下逆さまになって足で枕を使っていたなんてしょっちゅうだし、リビングの真ん中に寝転んで昼寝をしているなぁと思えばいつの間にか台所の床まで移動していた事もたまにある。不思議と、ベッドからは落ちない。
「……何やってんの?」
 そのベッドからは落ちないはずの女が、気付けば違う部屋で寝ている自分のベッドに潜り込もうとしているのだから、この怪奇現象をどう説明すべきなんだろう。
 薄明かりに照らされた布団――お腹の辺りが異様に盛り上がって、そこから直角に下半身が生えている――を捲りながら半眼で呻くと、「だってぇ」とべそをかいたような声が返ってきた。成人してまでするような返事か、と正直思う。
「ほら、今日寒いでしょ? せっかくだから暖めてあげようと思っ」
「いらない。出てけ。以上」
「もー! 最後まで聞いてよ!」
 千春が膝で小突くと同時に、ぽかぽかとお腹を叩いてくる。一文字遮るくらい、今更のはずだけれど。
 眠気を引きずったままの体を起こして頭を掻いた。幼馴染み――もとい、歩はこちらに顔も見せずにべったりとしがみついたままで離れようとしない。
 今日はホラー映画もホラーゲームも見なかったはずなのに、突拍子もなく甘えられても困る。
「……なんか、千春ちゃんが死んじゃってねぇ」
「は?」
 本人を目の前にして何を言っているのだろうと眉根を寄せると、夢の話だよ、と付け足した。寝間着の布地越しに吐息が伝わってきて、熱い。
「私一人になっちゃって、どうしようって思ったら目が覚めてね。……それで、一緒に寝たいなーって思ったの」
 溜め息をつきながら歩の頭を乱暴に撫でる。夢の話に振り回されるのも面倒臭くて、もう一度寝転んだ。
 気紛れでベッドの端に寄ると許可もしていないのに隣りに入り込んでくる幼馴染みは、遠慮というものをまるで知らない。壁を向いた千春の背中に顔を押しつけて嬉しそうに笑った。
「……あのさぁ。そんなに私の事、好き?」
「好き。大好き」
「そっか」
 今夜は冷えると、ニュースでやっていたはずなのに。
「千春ちゃんは? 私の事好き?」
「……ばーか」
 やけに体温が上がってしまって、ぶっきらぼうな言葉を返しながら瞼を閉じた。
 先に寝息を立て始めた歩は呑気に足で千春を蹴飛ばしてきたりするのだけれど、たまには見逃してやろうと思う。たまには、だ。夢で勝手に殺される度にこうではかなわない。大体、そう簡単に死んでたまるか。
 だから、歩が望むのならば。最後まで一緒にいてあげても、いいかもしれない。


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