朝のニュースでやっている占いを見るのが千春の日課だ。別に信じてなんかいないのだけれど、昔から両親と一緒に眺めていたからあれが無いと一日が始まらない気がする。
大体、星座や血液型で運勢が決まるなんて馬鹿げた話だ。適当にそれらしい話を並べておけばいいだけの、詐欺と大差無い胡散臭い代物である。
自分の未来は、自分で切り開かなければいけない。
「ふふ、千春ちゃんってば今日の運勢も最悪らしいよ。昨日も一昨日も最下位だったのに可哀相だねぇ」
「ははは、そりゃ参ったなぁ。でも三日連続で最下位取ってる歩にだけは言われたくないよー」
「そういう千春ちゃんこそ私と星座お揃いのくせにぃ☆」
「言ったなぁ☆ ――ってやってられるか!」
「珍しくノリノリ突っ込みだったね」
煙草のパックを力任せに握りつぶしてから床に叩き付けると、隣りでホットミルクを啜っていた歩がカチャカチャとリモコンを使ってテレビのチャンネルを変える。ニュースよりも教育番組がお気に入りらしいが、正直今はどうでもいい。
今日も、昨日も、一昨日も。三日連続で、星座占いが最下位。
確かに占いなんて信じてはいないというか信じたくもないのだが、これはさすがに、ないんじゃないか。
「歩、それ私も飲むからちょうだい」
「え? でもこれ蜂蜜入ってるよ。あんまり好きじゃないでしょ?」
「言っとくけど、今日のラッキーカラーが白だとかそんなのは関係ないからね」
「……千春ちゃんって、ほんと占い好きだよね」
呆れ顔でマグカップを差し出す歩に違うと言ってるじゃないかと言い返したくなるのを我慢して中身を呷る。
別に変な名前の占い師が短気は損気と言っていたのを気にしているわけではなくて、たまには歩に大人の余裕というのを見せつけてやろうとしただけで――
「……」
「どうしたの?」
顔を覗き込もうとしてくる歩を無視してトントンと喉元を拳で叩く。
思ったより熱くて、火傷しそうになった。
「ついてない……」
力無くソファーからずり落ちて、床に寝そべりながら呻く。
昨日はお腹を壊したし、一昨日は自販機の下に百円玉を落とした。黒猫にも横切られた。これも全部占いのせいだ。いや、信じてなんかいないのだけれど。
「千春ちゃんは気にしすぎだよー。それにさ、明日は一位かもしれないよ?」
「……私は歩と違って繊細なんだってば」
「あ、ひどい。私も繊細だもん!」
拗ねた様子で上に乗ってくる歩を押し退けてごろりと寝返りを打つ。二度寝でもしてやろうかと思ったけれど、今日は出かける用事があるからそうもいかない。
体を丸めて大きく溜息を吐いた。日課とはいえ、朝からやる気が失せる結果だ。
「しょうがないなぁ、千春ちゃんは」
青いネコ型ロボットみたいなセリフを残して、ぺたぺたと自分の部屋に戻っていく。先ほど投げ捨てた煙草を拾い上げながらだらけているとすぐに戻ってきた。
差し出された小さな紙切れを広げて、余計に脱力する。
「ああ……うん、まあ、ありがと」
「どういたしましてー」
見慣れた丸っこい文字で、大吉とだけ。
これで今日はもう大丈夫だよとにこにこ笑っているこいつは、やっぱり基本的にバカなのだ。そこが好きな自分も、バカだけれど。
なんだかおかしくなって千春も笑う。
明日こそ、一位だ。
余談だが。
「……そろそろテレビ局に抗議した方がいいんじゃない?」
「……私もさすがにそう思うかも」
翌朝は二人してへこんで、二度寝した。
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