(その1・2LDK)
「そういえば、千春さんっていつ頃までサンタさん信じてました?」
「……小4かなぁ。あ、でもそれ歩には絶対言っちゃ駄目だよ」
「え、どうしてです?」
「いや……なんていうか、まだ信じてるから」
「はい?」
「歩の親、変なとこでめちゃくちゃ凝るからさ。うちにもすごくレベル高いサンタ来てて」
「……分からなくもないですけど、さすがにもう気付いてるんじゃないですか?」
「でも歩だしなぁ……仕方ないから実家出てからは私がサンタやってるけど、毎年疲れるんだよね……」
「……千春さんも大変ですね」
「うん……」
「ねー、美夏ちゃんって何歳までサンタさん信じてた?」
「……はい? え、いや、そのー」
「あ、千春ちゃんにもう何か聞いた? 千春ちゃんさー、いまだに私がサンタさん信じてるって思ってるんだよね」
「え、気付いてたの?」
「……私もう大学生だよ? でも千春ちゃん毎年頑張ってサンタさんやってくれるし、言い出すタイミングがねー……寝たふりするの難しいよ……」
「……大変だねぇ」
「うん……」
(その2・2LDK)
「千春ちゃん千春ちゃん! 見て見て、高校の制服!」
「……」
「ブレザーだよブレザー。可愛い?」
「いや……よく分かんないけど」
「えー駄目? まだいけると思うんだけどなぁ」
「……ていうか、それどうしたわけ?」
「あのねぇ、美夏ちゃんが貸してくれたの」
「え、美夏ちゃんの学校デザイン違うでしょ」
「なんかね、自分で作ったんだって。あとメイド服みたいなのも借りたの。器用だよねぇ」
「作……?」
「あ、ねこ耳もあるよ?」
「付けるな」
「にゃんでよぅ」
「喋るな」
「にゃー」
「鳴くな」
可愛いから禁止。
美夏ちゃんは隠れオタでレイヤーって設定が昔からあるんだけど全然使いどころがない。
(その3・雨から降る錆後日)
・郁のためならなんでもあるよ
「へぷしっ! ねぇみなみ、ティッシュ持ってないかな? なんか風邪みたいでさ」
「はい。ほら、風邪薬もあるから飲みなよ」
「ありがとー。みなみ用意いいから助かるよ」
「ま、これくらいはね。ていうかさ、具合悪いなら早退したら? 無理しちゃ駄目だよ」
「そうしようかなぁ……あ、でも家に鍵置いたままだ。帰っても入れないや」
「それならあたし合鍵持ってるから大丈夫だよ」
「……え?」
「え?」
なんで持ってるのかは怖くて聞けませんでした。
・郁のことなら何でも知ってる
「ちょっと雨宮。何よこれ?」
「ああ、知人にチョコレートを頂いたから郁にあげようと思ったのよ。柴さんも食べない?」
「ふふん、残念でしたー。郁は日本のチョコしか食べれないんだから」
「そうなの?」
「好きなものくらい把握しときなさいよね。あんた郁のこと何にも知らないんだ?」
「……」
「あたしは郁のことなら全部分かるけど。嫌よねー、愛がないっていうの? どーせそのうち愛想つかされるに決まってんだから」
「そうね。私が知ってる事といえば郁が今穿いてる下着の色と柄くらいのものだわ」
「……」
「いいから黙ってパンツ見せなさいよ!!」
「い、嫌だよ!」
・味だけは文句ないのに
「前から気になってたんだけどさ、どうして佐和子さんって蓋でお弁当隠して食べるの?」
「バカねぇ、郁。あれよ、日の丸弁当とかメザシオンリーとか、そういう人に見せるのは恥ずかしいおかずだからに決まってるじゃん。可哀相だから聞いちゃ駄目よ。あー可哀相」
「え、佐和子さんちって別にそういうのじゃないよ?」
「高楊枝で見栄はってるのよ。本当は株価急下落だわ汚職の発覚だわで大変なのよ?」
「でもさっきから食べてるおかず、普通に玉子焼きとかからあげとか美味しそうなのに」
「そんなわけだからちょっと中見せなさいよ雨宮」
「……どういうわけなのよ。嫌に決まってるでしょう」
「あ、郁がパンツ脱いでる」
「どこ?」
「脱いでないよ! ていうかなんで佐和子さん引っかかるの!?」
「さて、雨宮はどんな貧しい食生活を――」
「……」
「……あんたんちって、新妻が弁当作ってるの? 何、このピンクとハートだらけの弁当」
「……佐和子さん、浮気してたんだ。何、この佐和子LOVEって文字」
「……だから嫌だって言ったのよ。お願いだから、郁も泣くのは勘弁して頂戴」
「ねぇねぇ佐和子、お弁当美味しかった? お姉ちゃん今朝も4時起きで頑張っ」
「明日もあんなもの作ったら家出するわよ」
「どうして!? あ、ピーマンが嫌だったの? それともニンジンさんが」
「……」
・だってお小遣い少ないから
「もーお姉ちゃん。お風呂あがりに下着でうろうろするのやめてって言ってるでしょ?」
「んー、だって暑いし楽だし……あれ? 牛乳もうないの?」
「飲んでも別に成長しないと思うよ」
「……すぐそんなこと言う。お茶以外になんかないかなぁ……」
「……だから服着ないとまた風邪ひいちゃうよ」
「あとで着るってば。ねぇ、未来さっきからカメラいじって何してるの?」
「これ? 明日ちょっと使うから、今のうちに操作慣れとこうと思って」
「ふーん。あ、インスタント味噌汁あった。もうこれでいいや」
「で、これがお姉ちゃんの恥ずかし生写真なんですけど」
「買った!」
「買ったわ!」
・郁だけ成績悪いんだもの
「ねぇ、これの答えってなに?」
「うん? ああそれは――」
「ちょっと柴さん、すぐに教えようとしないで頂戴。大体郁も、少しくらい自分で考えるべきだわ。何のためにこうして試験勉強してると思ってるのよ」
「……だって、考えても分からないから聞いてるんじゃないか」
「雨宮は厳しすぎなのよ。別にいいでしょ、解き方も教えてるんだし」
「いつも聞いてばかりじゃ身に付くわけないでしょう? 柴さんこそ郁を甘やかしすぎるのよ。さっきから休憩ばかりで、ちっともはかどってないじゃない。こういう時はきちんと叱らないといけないと思うわ」
「はぁ? あたしが悪いっていうの?」
「そうとは言ってないでしょう。ただ、もう少し郁の将来も考えて――」
「郁は褒めたら伸びる子なのよ! あんたなんか普段の世話はあたしに任せっぱなしでいいとこ取りばっかしてるくせに、余計な口出ししないでくれる!?」
「なっ、だから私はそういうつもりはないわよ! あなたの考えだけで無責任な事をしないで頂戴って言ってるのがどうして分からないのかしら!?」
「……あの、二人とも? ごめん、ちゃんと勉強するからさ。なんでさっきからそんな、子供の教育方針で喧嘩する親みたいな会話を」
「「いいから子供は黙ってなさい!」」
「……ええー」
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